2017年8月27日 (日)

私の憲法9条改正案(結論のみ)

 以下に試みるのは、現行の日本国憲法の改正案であって、現行憲法を別の憲法に置き換える案ではない。  言葉の本来の意味における「改正」の案は、どんな案であっても、日本国憲法の同一性(アイデンティティ)を支える主要原則――①国民主権、②基本的人権の尊重、③平和主義、④国際協調主義――を揺るがせることなく、むしろこれらの主要原則をよりよく条文に反映させることを目指す。  つまり、その名に値する憲法改正案は必ず「護憲的改正案」であり、それ以外のものは「壊憲」を前提とする新憲法案なのである。   ■第1項は維持する。但し、条文を(例えば)以下のように修正する。 ■第2項を削除して、(例えば)以下のよ...

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2017年8月11日 (金)

「官僚のクズ」?(2017/6/15)

 前川喜平・前文科省事務次官が、加計学園問題関連のいわゆる「総理のご意向」文書について、「あったものをなかったとは言えない」として記者会見に臨んだのは本年5月25日であった。以来、官房長官や読売新聞に何を仄めかされようとも怯むことなく、前川さんは一市民として、気負うこともなく表現の自由を行使している。  彼が6月1日のテレビ朝日系『報道ステーション』で、次のように語ったことを知る人は少なくないだろう。 《私ね、座右の銘が「面従腹背」なんですよ。あの、これは普通は悪い意味で使われるんだけど、役人の心得としてある程度の面従腹背はどうしても必要だし、この面従腹背の技術というか資質はやっぱり持つ...

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2017年6月 7日 (水)

「共感」の意味するもの

 蒸し暑い夏の一日の終わり、俄に空がかき曇り、激しい雨が降ったとしよう。夕立の止んだ直後、嘘のように明るくなった空に目をやると、前方、東の空いっぱいに、大きな虹がかかっている。その美しさに息を呑む。一瞬、身じろぎできない。が、その直後、家族か、恋人か、友達か、とにかく近くにいる人を呼ばずにいられるだろうか。呼んで、虹を指ささずにいられるだろうか。ことほど左様にわれわれは、美しいものに遭遇すると、誰かといっしょにその感動を分かち合いたくなる。  ブティックで小物を気に入った女性が、「ねえ、ちょっと見て、可愛いわねぇ!」と連れに言うのも、インターネット上のビデオで、外野手イチローの超ファインプレ...

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2017年5月30日 (火)

退任の挨拶(2017/03/31記す。慶應SFC教職員向けメルマガに掲載)

 SFCで17年間教鞭をとらせていただきました。じつに爽快な職場でした。ひとえに同僚教職員の皆様方のお蔭であり、心から感謝しております。  在任中、私は僭越にもSFCの運営に五月蝿く「文句を言う」タイプでありましたから(笑)、最後まで問題提起を続けて立ち去ろうと存じます。  昔、日本の大学は通俗的意味で「封建的」でした。教員同士、教員と職員、そして教員と学生の関係も「権威主義的」でした。今日、わがSFCを筆頭に、大学はそうしたメンタリティからかなり脱却しました。大学の核である「知」というものの普遍性に鑑みて、頗るポジティブな進歩です。  ところが今、日本の大学はグローバル資本主義の自由市...

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2017年5月16日 (火)

安倍首相の「加憲」案は失投である。

 安倍首相が最近、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と述べ、憲法9条の1項と2項にはまったく手をつけずに、第3項に自衛隊の合憲性を明記する「加憲」案を表明しましたね。たとえばJ-CASTニュースは次のように報じました。  《安倍氏は憲法記念日にあたる5月3日の読売新聞朝刊のインタビューや、同日に開かれた改憲派の集会に寄せたビデオメッセージで、(1)2020年までに憲法を改正し施行を目指す (2)現行の憲法9条1項と2項は維持し、新設する3項で自衛隊の根拠規定を設ける、ことなどを表明。野党時代の12年に自民党が作成した改正草案には「こだわるべきではない」としており、従来と比べて「...

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2017年5月13日 (土)

国連安全保障理事会2003/2/14におけるドミニク・ド・ヴィルパンの演説

国連安全保障理事会2003.2.14における フランス共和国外相ドミニク・ド・ヴィルパンの演説(拙訳) ― VILLEPIN, Dominique de, et al. : Un Autre monde, L’Herne, 2003.より  2003年2月5日の安全保障理事会で、米国国務長官パウエル氏は、イラクのフセイン政権とアルカイダの間に連携があるかのような報告をおこなった。それでも理事会の過半数と国際世論は米国の見解に同調していなかった。しかし、その後もイラク政府に対する米国の圧力はますます強まっていた。ブッシュ米国大統領は、特に2月6日には「ゲームは終わった」とまで言明した。  ...

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2017年5月12日 (金)

個別性への想像力――世界文学の効用――

 故米原万里のノンフィクション『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(角川文庫)の中で、マリという名の語り手(≒著者)が次のような印象的な台詞を吐いている。  《だいたい抽象的な人類の一員なんて、この世にひとりも存在しないのよ。誰もが、地球上の具体的な場所で、具体的な時間に、何らかの民族に属する親たちから生まれ、具体的な文化や気候条件のもとで、何らかの言語を母語として育つ。どの人にも、まるで大海の一滴の水のように、母なる文化と言語が息づいている。母国の歴史が背後霊のように絡まりついている。それから完全に自由になることは不可能よ。そんな人、紙っぺらみたいにペラペラで面白くもない》(p.188)  ...

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2017年5月 9日 (火)

ナショナリズムって何?――思想史の視座から――(2005/12/26)

 「ナショナリズム」――Nationalism(英)、Nationalisme(仏)――という語はおそらく英国起源なのですが、政治関係の語彙がしばしばそうであるように、フランス語の中に入って特別な意味を帯び、その上で国際的に流通するようになったようです。  フランスである程度広く用いられ始めたのはどう早く見積もっても19世紀後半です。1874年刊行のラルース大辞典を見ると、当時から語義が二つあったことが分かります。自国や自民族を盲目的に賛美し、他国や他民族を侮蔑する態度、つまり偏狭な愛国心を意味する一方で、一九世紀ヨーロッパに勃興した、ネーションの独立ないし自律を求める運動をも指していたので...

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2017年5月 7日 (日)

組み体操の「現象学」(2017/01/09)

 十数年前から小・中・高校の運動会で組み体操が名物のようになり、どんどん巨大な構築へとエスカレートしていたこと、それにともなって頻発する事故が近年各種メディアで問題視されるようになっていたことは、皆さんご存知にちがいない。    ところが、夙に組み体操の危険性を指摘して来た名古屋大学大学院准教授・内田良さんのブログ(YAHOO!ニュース、2016年12月30日)によれば、昨年は全国で事故が大幅に減少したそうだ。たとえば大阪では、一昨年との比較で、組み体操を実施する市立小学校が293校から201校に減り、負傷事故件数も71.4%の減となったらしい。それでも12名もの小学生が骨折したというのだから...

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2017年5月 6日 (土)

日本的「一体感」の表と裏(2016/08/26)

 リオデジャネイロ五輪で、日本選手団は金12、銀8、銅21、合計で史上最多41個のメダルを獲ったという。まあ、万々歳だ。国別のメダル争いなんておかしいと、野暮なことは言うまい。「国を背負って」の競技会だからこそ、オリンピックやワールドカップがここまで人々を熱狂させるのである。  実際、TVを通して日本中を「感動した!」の渦に巻き込んだのは、なかんずく競泳男子八百米リレーの銅、体操男子団体の金、卓球男子団体の銀、同女子団体の銅、陸上男子「四×百米」リレーの銀など、個人競技の国別団体戦だった。日本人の場合は特に、たとえ個の力で劣ってもチームが力を合わせる、というのが心の琴線に触れる。  泣かせ...

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