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2017年5月13日 (土)

国連安全保障理事会2003/2/14におけるドミニク・ド・ヴィルパンの演説

国連安全保障理事会2003.2.14における
フランス共和国外相ドミニク・ド・ヴィルパンの演説(拙訳)
― VILLEPIN, Dominique de, et al. : Un Autre monde, L’Herne, 2003.より

 2003年2月5日の安全保障理事会で、米国国務長官パウエル氏は、イラクのフセイン政権とアルカイダの間に連携があるかのような報告をおこなった。それでも理事会の過半数と国際世論は米国の見解に同調していなかった。しかし、その後もイラク政府に対する米国の圧力はますます強まっていた。ブッシュ米国大統領は、特に2月6日には「ゲームは終わった」とまで言明した。

 米国とイギリスが軍事介入の準備を進め、武力行使を認める決議案の作成を開始する一方で、フランスは、ドイツおよびロシアとともに、軍事介入がもたらしかねない影響に比して米国側の論拠が薄弱であるとして、安保理の過半数以上の国々の説得に努めていた。3カ国はいずれも、査察の継続によってイラクの武装解除を平和裡に実行しようと訴えていた。特に、フランスが具体的なイラク査察強化案を書面で提示すると、米国ではフランスの外交姿勢がますます問題視されるようになった。

 2003年2月14日、イラク査察の責任者であるブリクス、エルバラダイの両氏が、査察の進捗状況について国連安全保障理事会の場で2回目の報告をおこなった。両氏は、イラクの協力が手続きと内容の両面で進展したと述べた。高まる国際的圧力の下、イラクは査察団へのより実質的な協力姿勢へと傾いたようであった。国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)はイラク人科学者から立会人抜きで聴取をおこなうことができたし、2月10日にはフセイン政権が偵察機の領空内飛行を許可していたのである。なお、ブリクス氏は、パウエル国務長官が2月5日に提示した情報に対しても距離を置く発言をした。

 その日、次に発言したのが、フランス共和国のドミニク・ド・ヴィルパン外務大臣(当時)であった。

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 議長、事務総長、各国の大臣ならびに大使の皆さん。

 はじめに、イラクにおける査察の進展状況を報告してくださったブリクス、エルバラダイの両氏に感謝いたします。フランスが両氏を信頼し、その任務遂行に全面的な支援を惜しまないことをこの場で改めて表明いたします。

 ご承知のとおり、フランスはイラク問題発生当初より安全保障理事会の結束を重視してまいりました。安保理がその結束を保つことができるかどうかは今日、これから述べる二つの重要な要素にかかっております。

- われわれが共同で達成しようとしている目的は、イラクをして実質的な武装解除に到らしめることです。この目的に向かって、必ずや結果を出さねばなりません。

- われわれは皆一致してこの目的を達成しようとしているのですから、そのこと自体に疑念を差し挟むことは慎みましょう。われわれが共同で担っている重大な責務を思えば、他国の下心を疑ったり、意図を勘ぐったりしている場合ではないのです。事柄を明瞭にしましょう。この安保理に、サダム・フセインと彼の体制をいささかなりとも大目に見ようとしているような国は存在しません。

 われわれは国連決議1441を全会一致で採択し、フランスの提唱した二段階方式を採ることに合意しました。二段階方式とは、査察による武装解除という方法を選択し、この方法が功を奏さない場合には、安保理が武力行使を含むあらゆる選択肢を改めて検討するという内容です。したがって、査察が失敗に終わった場合、そしてその場合にのみ、第二の決議の採択が正当化されるのです。
 
 今日われわれの眼前にしているのは単純な問題です。正直に自らの胸に問うて、公正な判断に基づいて査察による武装解除が今や完全に行き詰まっていると判断するのか。それとも、国連決議1441によって開かれた査察の可能性がまだ十全には活用されていないと考えるのか、ということです。
 
 この問題に対してフランスは次の二点を確信しています。

- 一つは、査察がまだ十全に実施されたわけではなく、査察を継続することで、イラクの武装解除という至上命令に有効な答えを与えることができるということ。

- もう一つは、武力の使用は、それが人々と地域と国際的安定に及ぼす深刻な影響に鑑みて、最後の手段としてしか考慮し得ないということです。
 
 ところで先程、ブリクス、エルバラダイ両氏はどのような報告をされたでしょうか。両氏は、査察は成果を上げていると述べられた。もちろん、われわれは現在の成果以上のものを求めるし、今後も共同でフセイン政権に圧力をかけ、さらなる成果を引き出していくのです。しかしながら、とにもかくにも、査察が現に成果を上げているのです。
 
 国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)委員長と国際原子力委員会(IAEA)事務局長は、前回1月27日の安保理への報告の中で、査察の進展が望まれる領域をいくつか具体的に挙げました。そしてそれらの領域の多くにおいて、このたび査察の著しい進展が認められたのです。

- 生物化学兵器に関しては、イラクは新たな書類を査察団に提出しました。また、ブリクス氏の要求に応じ、兵器開発計画に責任者として携わった人間たちによる調査委員会の設立を発表しました。

- 弾道ミサイルに関する査察も、イラクの情報提供により、同様に進展しています。われわれは今や、アルサムード・ミサイルの性能を正確に把握しています。現在なすべきことは、ブリクス氏の結論にしたがって、国連が禁止している兵器開発計画をイラクに破棄させることです。

- 核兵器に関しては、1月27日にエルバラダイ氏が言及したいくつかの最重要点について、IAEAに有益な情報が提供されました。すなわち、ウラン濃縮に用いられ得るマグネットが入手されたという情報、およびイラクと、イラクにウランを提供したと思しき国の間の仲介者のリストです。
 
 これらの進展は国連決議1441の狙いにまさに合致しています。国連決議1441は、まず禁止されている兵器開発計画の内実の把握、そして次にその除去、という手順で、査察を実効的なものにするのであります。われわれは全員、査察を成功させるための前提として、イラク側の全面的協力を得る必要があることを認識しています。フランスはイラクに対し、一貫してそれを要求してきました。
 
 査察の実質的な成果が上がりつつあるわけです。イラクは偵察機の領空内飛行を許可しました。また、査察官によるイラク人科学者の聴取も立会人抜きでできるようにしました。以前から査察団が突きつけてきた要求にしたがって、大量破壊兵器の開発に関わるすべての活動を禁ずる法案が採択されようとしています。1991年の兵器プログラム廃棄に関与した専門家の詳細なリストも、遠からずイラク側から提出されるはずです。
 
 いうまでもなくフランスは、イラクのこのような協調を長期的に確認していかなければならないと考えています。のみならず、引き続きイラクに対して強い圧力をかけ、イラクがさらにいっそう協力的になるよう仕向けなくてはなりません。

 これらの進展の事実は、査察という手段が効果的であり得るという確信を強固にしてくれます。ただし、まだこれから成し遂げなければならない膨大な量の仕事からも目を逸らすわけにはいきません。問題点は引き続き明らかにされていかなければならないし、検証の作業も必要です。軍事施設や物資の廃棄もたぶん継続しなければなりません。そのためには、査察団が十全に活動できるような体制を整える必要があります。

 2月5日の安保理で、私はいくつかの提案をいたしました。その後、提案の内容を詳述した文書をブリクス、エルバラダイ両氏のもとに提出し、その内容を安保理の各理事国にも伝えました。

つまるところ、どういう提案であったか。実際的かつ具体的な提案であり、速やかに実行することが可能で、査察の効率を上げることを狙ったものでした。フランスの提案は国連決議1441の枠内にあり、したがって新たな国連決議を必要としません。いずれもブリクス、エルバラダイ両氏の作業を支援するのが主旨ですから、当然のこととして両氏自身が、査察の効率アップのために、いくつかある提案のうちのどれを選択するかを決めるでしょう。

両氏からは、御報告を通して、有益かつ実際的なコメントを頂戴しました。フランスがブリクス、エルバラダイ両氏に活用していただくために、ミラージュⅣ偵察機を始めとする追加手段を提供しようと考えていることは以前に述べたとおりであります。
 
 さて、もちろん、フランスの姿勢に批判的な方々がおられることは承知しています。たとえば、そもそも査察にはいっさい効力がないと考えている人がいます。そのような人に対しては、査察こそが国連決議1441のエッセンスだということ、そして査察が成果を上げているのだということを再度申し上げたい。その成果を不十分と判断するのは自由ですが、成果が上がっているという事実は動かせません

 また、査察の継続は軍事介入を阻止するための一種の「引き延ばし工作」にちがいないと思っている人もいます。そうだとすれば、問題になってきているのは、イラクに与える時間的猶予です。ここに議論の焦点があり、問われるのはわれわれの信頼性と責任の意識です。では、勇気を持って、この問題を検討してみようではありませんか。

 われわれには選択肢が二つあります。

- 戦争という選択肢は一見、査察よりも手っ取り早いように思えるかもしれません。しかし忘れるべきでないのは、戦争に勝ったあとで平和を構築しなければならないということです。そして、現実を直視しましょう。平和再構築の過程は長く困難なものとなるにちがいありません。というのも、イラクが分断されないように配慮しながら、軍事介入によって深刻な影響を受けた国と地域に持続的な安定をもたらさなければならないからです。

- こうした展望に対応するようにして、他方には査察という選択肢があります。査察の道を選べば、武装解除を一歩一歩、効果的かつ平和的に進めることができます。結局は、この選択のほうがより確実で、より迅速な解決をもたらすのではないでしょうか。
 
 誰ひとりとして今日、査察よりも戦争のほうが近道だなどと主張することはできません。また、誰ひとりとして、戦争によってより安全で、より公正で、より安定した世界がもたらされると主張することはできません。なぜなら戦争とは常に、失敗したことの公然たる確認、つまり、失敗したときに余儀なく強いられる行為であるからです。多くの問題を前にして、われわれには武力しか頼るものがないのでしょうか。けっしてそんなことはないはずです。
 
 ですから、国連査察団に、任務を成功させるために必要な時間を与えましょう。尤も、皆で警戒を怠らぬようにするに越したことはないので、ブリクス、エルバラダイ両氏に、安保理への定期的報告を要請しましょう。フランスは、3月24日に改めて安保理の外相会議を開催し、状況を検討することを提案いたします。その外相会議で、査察の進展と、残された課題について判断を下すことができるでしょう。
 
 このように考えると、現時点における武力行使は正当化できません。戦争に対する代替案が存在するのだからです。すなわち、査察によってイラクを武装解除することです。しかも、軍事的手段を早まって行使した場合、その結果は深刻なものとなります。
 
 今日、われわれの行動が権威を持つか否かは、国際社会の一致した支持を得られるかどうかにかかっています。時期尚早な軍事介入は国際社会の結束を揺るがせ、その結果、軍事介入が正統性を、そして長期的には効果を失うでしょう。軍事介入は、ただでさえ傷つき、脆弱なものとなっている中東地域の安定に計り知れない深刻な影響を及ぼすものと思われます。人々の不公平感を募らせ、対立を深刻化させ、新たな紛争へと道を開くことになりかねないのです
 
 われわれは優先事項を共有しています。断固としてテロリズムと闘うことです。この闘いが要請するのは強い決意です。9月11日の惨劇以来、テロリズムと闘うことは諸国民に対するわれわれの責務の一つとなりました。テロリズムという酷い害毒による攻撃をいくたびも経験してきたフランスは、国の総力を挙げてテロリズムと闘っております。この闘いと無関係の国はありませんし、われわれは力を合わせてこの闘いを遂行せねばなりません。だからこそ1月20日には、このテーマに関する安保理が、フランスの発議で開催されたのであります。
 
 さて、10日前のことです。米国国務長官のパウエル氏は、アルカイダとフセイン政権には繋がりがあると思われると述べました。わが国が同盟諸国と連携しておこなっている情報収集と調査の現段階では、そのような繋がりを証拠立てるものは何ひとつ見つかっていません。

一方、反対の声を無視して軍事行動に踏み切るとすれば、その行動がどれほどの衝撃をもたらすかをも量らねばなりません。そのような軍事介入は、社会間、文化間、民族間の溝を深め、テロリズムの温床を作ることにならないでしょうか。

 フランスは一貫して述べてまいりました。もし査察団の報告が査察の続行を不可能であると結論づけたならば、そのときには武力行使もやむなしとなる可能性があり、わが国はその可能性を排除しはしない、と。そんな状況に立ち到った場合、安保理は安保理として態度を表明し、理事国はその責任を全うするよう努めなければなりますまい。

このような仮定において、私は二月四日の会議で強調した問いを再提起し、この問いにわれわれは答えを与えねばならないのだ、ということを申しておきたいと思います。すなわち、このたびの脅威のいかなる性質とどのような規模が、早急な武力行使を正当化するのか? どのようにして、軍事介入に伴う大きなリスクを現実に抑制するのか?

いずれにせよ、こうした仮定の状況においても、国際社会の結束こそが、事を有効に押し進めるための保証でありましょう。同様に、今後何が起ころうとも、国連こそが将来にわたって平和構築の中心であり続けるでしょう。

 議長、戦争がいつ、どのように始まってしまうのかと恐れている人びとに向かって、私は今、安全保障理事会は何事も、どのような時においても、無理解、疑念、恐怖に囚われて早計に判断することはないと、そう告げたいと思います。

 国連というこの厳粛な場で、われわれはひとつの理想を擁護する役割、良心というものを擁護する役割を担っています。この重責と、この栄えある名誉を自覚するとき、われわれは武力行使よりも平和裡の武装解除を優先すべきでありましょう。

 今日このことを述べるのは、古い国フランス、私の古い大陸、ヨーロッパです。この国は、この大陸は、戦争、占領、蛮行を経験しました。この国は米国をはじめとする諸外国から駆けつけてくれた自由の戦士たちのことを忘れてはいませんし、彼らにどれほどのものを負っているかを知っています。

 しかしこの国も、歴史に向かい合い、人類を前にして、膝を屈することなく真っ直ぐに立ち続けてきました。この国は自らの奉ずる諸価値に忠実に、国際社会のすべての構成員とともに、敢然と行動してゆきたいと思っています。この国フランスは、国際社会には、つまりわれわれには、より良い世界を共同で構築する能力があると信じているのです。

 ご静聴ありがとうございました。(★下線による強調はすべて堀)

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とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!

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